SPECIAL

飯田水産

日本橋から受け継がれるプライドによって、
繊細に磨き上げられた眼差しが、
魚との奇跡のストーリーを見出し続ける。
学生時代は海に関係することが学びたいと、海洋プランクトンを研究。就職後も知人に頼まれて魚事典を監修。そして、私たち協会のオンライン講座の講師でもある飯田水産の社長、飯田知誉さん。仲卸のなかでも、深く海を知り、深く魚を知る人と言っても決して過言ではない飯田さんに、お話を伺いました。
3月31日まで大学院。
4月1日、市場へ。
きっかけはですね、祖父からやっている仕事なので、いずれはやるんだろうなと思っていました。高校を卒業したときに親父が倒れて、そのあとは母と姉が店に出ていたわけです。僕はその間、東大で学生生活を送り、大学院へ行って。修士2年目の冬の終わりに、姉が別の仕事に就くことになり、おふくろがひとりでとはいかないわけで。博士へ行くかどうか、僕自身も修論を書きながら悩んでいて…。これも何かのきっかけかなと思って、この仕事を始めようかと。3月31日まで大学に行って、翌日から市場に来たという感じです。
見様見真似で、
失敗を繰り返しながら。
最初は、お店の番頭さんにくっついてウロチョロしていましたね。ただ見ていたというか、仕入れは番頭さんがやることなので。だから、魚に関して、うちの親父から教えられることはなく、番頭さんからも「これはこうだ」と言われることもなく、見様見真似。自分で仕入れるようになってからも、「他の仲卸がこれを買ってんなぁ、いいのかな」って思いながら買ってみたり。でも、実際は良くなかったとか失敗しながら。まあ、良くなかったってのは、着眼点がよくないから。出したお客さんに「何だこれ!」って、怒られながらやっていました。当時、バブルがはじけたとはいえ、なんとなく平成の一桁のころは、物量的にも今とは比べ物にならないし、忙しかった。美濃桂の会長もおっしゃっていましたけど、何センチ角で切るとか、料理屋さんごとに使いたいサイズがあって。それに合わせた品物を揃えるのは、僕もやっていました。だから、セリ場で1つの箱を見て魚のサイズにばらつきがあれば、50箱でも100箱でも買わなきゃいけない。そこから選別して出していましたね。残りも持って行ってくれるお客さんがいましたし。
1日400〜500本、
目利きする。
魚を見るときに大切にしているのは、お客さんが欲しいものを考えること。あと、クオリティですね。箱に1本(1匹)で入っている魚、例えばブリにしても卸売各社を合わせると500箱ほどセリ場に並ぶ。そのなかで、目で見られるなら1本1本、箱を開けて確認しますね。親父たちがやっていたころは、例えばお客さんの注文が1本2本でも、ブリなら10本くらい買ってきて、自分の店で選りすぐって出していた時代でした。いまでも、やっぱりちょっと余計に買っていきたくなるけど、時代的にそうも言っていられないから、1つ1つ開けてます。あと値段の問題は難しいですが、自分の下付け(セリ場での下見で自分なりの値段を付ける)と合っている値段で出してくれるセリ人と話をする。まあ、相性もあるし、僕なんか0時半に札だけ付けて4時~5時くらいまで値段を聞かないこともありますよ。セリ人がつける値段も結局、その日の売れ行きで変わるので。
セリ人とお客さんのお店へ。
お客さんと一緒に産地へ。
魚と値段以外でセリ人と話すのは、「ゴルフ行こうか」って話とか、世間話ですよ。例えば、お客さんのお店に、一緒に飯を食いに行ったり。そうするとそのセリ人は出している先で、「こう使われているんだ」と思うから、産地から良い魚を呼んでくれたりする。あとはセリ人やお客さんを産地の出荷者のところへ連れて行って、「こんな魚が欲しい」と話をしてくることもある。年に2~3回くらいかな。こういうことをすると、セリ人もお客さんも魚に対しての想いが、ぜんぜん違ってくるんですよ。
お客さんに「魚、良かったよ」
なんて言われたことない。
だって、“良くて当たり前”だから。「どうでしたか?」って聞くこともない。若い頃に聞いたら、「お前は自分が心配するような魚を出しているのか!」って叱られました。僕も「そうだよな」って思った。今は、質に自信のない魚は断っていますが、昔は断れなくて、なんとか揃えてお客さんに使ってもらえるようにしていた時期もある。でも、「お前たちはたくさん扱っているが、こっちはその1本が大事なんだ」とお客さんに言われたことがあって。そういうやり取りをしながら成長させてもらっています。お店の家風というか、うちも今でこそ小さいですけど、日本橋から続いている「茶屋物師」なんで。「茶屋物師」って、昔の文献を読むと上物を料亭とかに収める人たちのことって書いてあるんです。今はこの単語を使う人はいないかもしれないけど、「茶屋物師」は本当に少なくなっていて。受け継がれてきたプライドが違うんです。セリ人もそういう目で、うちを見るんですよね。
この仕事で嬉しいことは、奇跡のストーリーを見出すこと。
ここ数年、嬉しいのはいいカツオを買えたとき。カツオは難しいというか、たまにハズすときがあるんでね。「割って中身を見ないと分からない」と、みんなからも言われています。セリ人との話で、これはいいだろうという情報のもと、1本1本見て買ってくるのにダメだとアタマに来ちゃう(笑)。だから「この魚すごいな!」ってものに出会えると、すごい嬉しい。考えてみると、豊洲のセリ場でその魚に出会えるって、漁師が獲ってこっちに送らなきゃいけない。その前に、広い海の中で…ってストーリーを考えると本当にすごいと思います。そんなことは、年に3~4本くらいだけどね。
目利きとして、
間違いないものを。
プライドを持って、魚の良さ、品質だけは落とさないようにすることが大切。魚1キロ1万円するような高い魚でもあんまり臆することなく、良かったら買う。商売のことばかり考えちゃうとダメなこともあります。魚の目利きというのは、お客さんの好みに用立てるのも目利きであるし、絶対的にこの魚いいなっていうものを選び抜くのも目利き。僕は、後者のほうが大事だと思っています。「この魚は間違いない」と思える目を養うこと、それだけ。同じ出荷者の魚でも全然違うものもありますから。毎日、荷物が届くなかで魚の様子が違うときもあって、それをよく見定める。そのために朝早く起きているのだからね。まあ、いろいろ海を取り巻く状況も変わっているなかで、これからも食べて美味しいものをお客さんに提供し続けるしかないんでしょうね。そこに尽きる。美味いものを提供してみんなで良かったねと笑えること、飲食店に来るお客さまもそうだし、みんなで幸せになれるのがいいじゃないですか。
仲卸コラム
飯田社長に聞きました!
「変わっていく海の状況」について
獲れるものがどんどん違ってきている。北海道とかすごくいい。鰆とか特に。昔は青森なんかじゃ獲れなかったけど、今じゃ当たり前に獲れる。北海道でイワシやアジも獲れるし、水温が変わっているんでしょうね。あと、なんか東京湾はいい状況だと思います。資源量とはうまく付き合わなきゃいけないんでしょうけど、東京近郊の供給が賄えるくらいはあるんじゃないかと。隅田川もきれいですよ。昔は、釣りをしても「絶対に食うな」と言われていましたからね。いつの間にか、水がきれいになって魚種も豊富。高度成長期を過ぎて、排水の問題とかをみなさんが考えてきたからですね。
飯田社長に聞きました!
「仲卸の海外進出」について
日本の食文化は独特。その良さを伝えられたら。本当は自分で海外へ行って現地の人へ魚の取り扱いのことを説明してみたい。うちの店をやってくれる人がいたらいいな。でも、実際のところ大手商社がやる話なのかな、とも思いますよね。サーモンにしても何にしても、商社の扱い量のこともあるし、仲卸の目の付け所とは違う話で仕事をしているんじゃないかな。たまたま僕の後輩が大手商事で魚をやっていて、海外輸出の話をしたら見ているところが違うと思った。そういうところも勉強になる。全体としていいものを流さなきゃいけないけど、商社は取り扱う量と、いかに現地でちゃんとやってもらうかが仕事。僕らの場合は、自分の目で見て責任を持って出すという細かい仕事なのでね。
飯田社長に聞きました!
「料理人との関係性」について
西麻布の裏路地に佇む「寿司 はせ川」こちらで使用する魚を毎日卸しています。お店では寿司と日本料理のコース仕立て。刺身、すしネタ、焼き物…と、メニューにより、例えば鯛ひとつとっても、締め方や大きさ、値段など要望は様々です。
私はふぐ免許をもっていますし、いろんな料理人と会話しながら商売をしてきたので、何をどう扱いたいか、それこそはせ川さんのように毎日会話しているからこそ、大体の希望が想像できます。魚は毎日変わるものなので、日々の魚情報は細かく共有し、納得のいく魚を用立てることに決して妥協は致しませんよ。とにかく信頼関係ですからね。目利きとして間違いのない魚を提供し、お客様さんが美味しく食べて笑顔になるのが何よりいいじゃないですか!
【ご住所】
寿司はせ川 西麻布店
〒106-0031東京都港区西麻布1-7-11 霞ハイツ 2F
TEL 03-5775-0510
地下鉄日比谷線六本木駅 2番出口 徒歩7分
都営大江戸線六本木駅 4B出口 徒歩9分
Open17:00~ Close 23:30(L.O. 22:30)
お休みは日曜日(日、月連休の場合は最終祝日がお休み)
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