仲卸として最初に大事なこと。
―はじめに会長の宏之さんにお話を伺いましたー
市場で働くきっかけは、親父である先代がはじめている商売だから。俺の場合は一人っ子だから止むなくだよね。ごく自然に入りましたよ。学生時代も小遣い稼ぎに来てたけど、正式に入ったのは22のとき。仲卸をはじめるにあたって、まず大事になったのは魚の下付け(セリ前の下見で自分なりの値段を付ける)ができること。つまり、魚を適切に評価できることですよね。その評価をするためには、鮮度や品質を見抜かないといけない。さらに、入荷量と天気や曜日から今日は魚が売れる日かどうかを総合的に判断する。そして、多くの仲卸がいるなかで、どうやってセリで魚を落としていくか。負けたら魚は買えないからね。でも、不思議なもんで、セリの場の雰囲気に馴染んでセリ人と調和できるようになると、他の仲卸がいくらで狙っているか分かるようになる。雰囲気で判断するんだけど、毎日毎日やってると見えるようになるんだよ。
市場で働くきっかけは、親父である先代がはじめている商売だから。俺の場合は一人っ子だから止むなくだよね。ごく自然に入りましたよ。学生時代も小遣い稼ぎに来てたけど、正式に入ったのは22のとき。仲卸をはじめるにあたって、まず大事になったのは魚の下付け(セリ前の下見で自分なりの値段を付ける)ができること。つまり、魚を適切に評価できることですよね。その評価をするためには、鮮度や品質を見抜かないといけない。さらに、入荷量と天気や曜日から今日は魚が売れる日かどうかを総合的に判断する。そして、多くの仲卸がいるなかで、どうやってセリで魚を落としていくか。負けたら魚は買えないからね。でも、不思議なもんで、セリの場の雰囲気に馴染んでセリ人と調和できるようになると、他の仲卸がいくらで狙っているか分かるようになる。雰囲気で判断するんだけど、毎日毎日やってると見えるようになるんだよ。
「目利き」になるために。
まず御用聞きというのがあったね。前日の夜、赤坂とか柳橋とか、料亭や料理屋のお得意さんまわりをして、そこで献立を教えてもらい、盛り付けも教えてもらう。うるさく言えば器との調和、そんなことも能書き言われながら、勉強するわけで。お店ごとにそれぞれ特徴がある、哲学だよね。例えば「うちの焼き物の切り身は、四角くなければいけない」とかさ。そこから何キロの魚をセリ落とすかを逆算していく。「ただ良い魚だから」ではなく、「どう使われるか」という点まで考えるのが当たり前。盛り付けもね、料亭さんは一週間の献立を絵にしている。板長さんが絵献立を書くんだよ。ちゃんと色までついている。それをどうやってカタチにするかまで考えて、魚を探すのが目利きの下付けなんだよね。御用聞きは、ずいぶんやったよ。10年、もっとやったかな。
人を深く知ることが、
とっても大切。
とっても大切。
この仕事で一番大切にしてきたことは、やっぱりお客さんの性格と特徴を知ることかな。御用聞き以外にも料理屋のご主人や板前さんが、うちの店頭に来てくれる。そこで、話をしながらね。昔の料理屋さんって、一か月献立ってのがあって、一回決めたらずっと同じ魚を使うわけ。だから切らすわけにはいかない。でも自然のものだから、ないときもある。そのとき、どうするかってね、アドリブだよね。代わる魚として、どういうものを奨めるか、お客さんと話をするなかで学んでいく。だんだん想った魚を売れるようになるんだよね。
これからも伝統を守り、
魚を守り続けていきたい。
魚を守り続けていきたい。
築地から豊洲に移転しても、魚の目利きは受け継がれている。これは紙に書いて覚えるものじゃないし、体で覚えるしかない。あと市場としての伝統。この市場だからたくさんの魚が集まり、品ぞろえに困らないわけだよね、特に豊洲は。こういった伝統を守らなきゃと思うし、生産者の人がね、安心して魚を獲れるような市場にしなきゃいけない。だんだん養殖も増えるだろうけど、天然の魚の価値を評価できる目利きを育て、その価値を世の中に伝えていくのも市場の使命じゃないかな。それができないと、日本の漁業も料理も廃れてしまうよ。これからも魚と日本人の心を守るのは市場だと思ってる。
魚だけなら3か月。信頼は一生。
これは身が厚いとか、魚の善し悪しについては3か月間、一生懸命に尽くしていれば分かります。だけど、それを売るときの信頼ってのは、一朝一夕では難しい。僕が考える目利きの仕事って、「あのお客さん、この魚でこの値段なら絶対納得だな」と感じ取れるようになり、お客さまから「こいつが言うんだから、いい魚なんだな」という信頼も含めてなんです。ときには、自分の目利きが足りていないこともあります。そんなとき、お客さんが教えてくれる。この見放されない人間性や関係をつくることが大事なんです。いまだにガキ扱いされることもあるけど、腹は立たちませんね。うちでその魚の質の8割を見ることができても、残りの2割はやはり包丁を入れるお客さん、つまり料理人さんじゃないと分からないと思っていて。その2割を教えてくれて、見る目を養わせてくれる師匠たちですから。まあ、基本的にお客さんのことが、大好きなんです。うちのお客さんが、世界で一番美味しい料理をするんじゃないかと思っています。
目利きとして。豊洲市場として。
僕らが目利きとして常に目指しているのって、値段と質の納得点だと思います。そのなかでこの仕事の面白さは、セリ場でないと味わえない部分だけど、たくさんの魚のなかから、まだ誰にも気づかれていない質の良い魚を見つけて買えるということ。時代の流れとしてセリが減ってきているので、そこに固執するのは難しいけど。でも、魚河岸の文化として、見抜く目を持つことは大事だと思ってます。そして、この目に応え続けているのが豊洲市場のすごいところ。同じ魚でも、同じひと箱の中でも、その質はそれぞれ。そのなかで、一匹の魚に向き合って、個のものに対する適正価格を判断して、みなさんにお渡しできる。なんでもかんでも安ければいいなら、豊洲で売る意味がない。安い高いではなく、その魚の価値が適正な価格で取引される場なんです。
今の世の中で、目利きの情熱を
伝えていくために。
伝えていくために。
正直なところ、昔ながらのやり方では限界があると感じています。コロナ禍もそうですけど、この先も人が市場に集まりにくい状況が来るかもしれない。そのなかで今、僕たちは「料理屋さんへなかなか行けないけど美味しいものを食べたい」という一般消費者の方々へ、目利きの意義と情熱を届けたいと考えています。とはいえ、素材をお届けするだけなら料理が必要だし、料理をするにはある程度のスキルが必要だし…。ファンの拡大のためにも、簡単なんだけどインスタントではない、美味しいものをどうしたらつくれるか。そう考えたなかで、長年にわたり魚を卸し続けている明治座さんと手を組み、2021年3月に新しい商品を開発しました。そこに込めた想いは、目利きが魚を厳選するのはもちろん、衛生面への配慮も十分ななかで工業製品ではなく、職人の手が込んでいるものにするということ。そして、実際に食べてみて、美味しいかということ。うちなんかの10人前後の店だけでは、できることが限られてしまいます。だから、いろいろなところと手を結ぶことで大きな力にする。その力を活かして、未来へつながる新しいうねりになれたらと、挑戦を続けています。